職場づくりモデル事例
社会福祉法人稲荷保育園まずは保育士自身の家庭の幸せを大事にできる環境を
稲荷山のふもと、恵まれた自然環境の中に立地する稲荷こども園。0〜5歳児までの子どもたちを養護・教育する施設で73年の歴史を誇ります。地域住民の中には「親子三代でお世話になった」という人もいるほど、この地域において欠かせない存在です。6年前には、京都市立砂川保育所の民間移管を受け、稲荷砂川保育園と改称し、現在、社会福祉法人稲荷保育園は稲荷こども園と稲荷砂川保育園の2園を運営。計約210名の子どもたちが登園しています。自然の中での体験や異年齢の交流、食や季節の行事を大切にするなど、子どもの心と体を育みながら知性を伸ばし、自立を促す保育・教育を行なっています。
楽しく自由に働ける環境で子育てしやすい職場に
同法人理事長・前川覚さんが、祖父が創園したこの園を引き継いだのは10年前。京都大学の教授を務めた後、保育園運営に携わることに。物理学の研究・教育から全く違う分野へ転向しました。「京都大学時代、自由な校風で、私自身楽しく仕事をしてきました。保育園も自由な雰囲気で、楽しく働ける環境であってほしいと考えています」と、前川さん。
しかし、子どものお世話は手がかかるもの。仕事であっても肉体的なしんどさなど、さまざまな苦労があります。前川さんは、「保育園は、働く親などに代わって子どもを育てる場所です。他の家庭のサポートをしている保育士が、自分の家庭を犠牲にすることがあってはいけない。まずは、自分の家庭を幸せにしてほしい」と保育士たちに伝えています。その思いを形にすべく、保育士たちが子育てしやすい環境作りに力を入れてきました。
育休の期間は希望制で復帰後の雇用形態も選択可
過去4年間、職員50人のうち産休・育休を取得したのは10人。育休の期間を自由に設定できるのが同園独自の支援制度です。最長で2年4ヶ月の育休を利用した職員さんもいるそう。さらに、復帰後は正規職員とパート職員のどちらの雇用形態で働くかを自ら選択することもできます。「これまで10人のうち正規が4人、パートが4人、未定が1人、残念ながら退職した方が1人です。昨年は、結婚された保育士が4人。子どもを希望する人は、子育てを楽しんで、希望する形で職場復帰してほしいと思います」。育休を利用し、復帰した保育士からは「残業がなく、シフト制のため先々の見通しを立てやすく、家族内でうまくやりくりできています」との声が上がっています。
また、週休2日を厳守し、子どもの参観や行事への参加など、1時間単位の有給休暇制度も整えています。
待遇を上げて保育士を確保 保育の質を高めたい
ところが、保育士さんにとって働きやすい職場である一方、保育園の運営面では、苦しい状況に立たされているそう。「制度が充実し、お休みされる先生が増えると保育園側の負担は大きくなります。フリーの先生や、職員を増やすといった人材の確保が必要ですが、保育園の運営費の80%は人件費。多くの保育士を抱えることは、経営を圧迫する要因にもなります。でも、私たちは保育士の給与はできる限り一般企業に近いものにしたいと考えています。ボーナスや処遇改善費は、正規職員だけでなくパート職員にも支給しています」。
前川さんは「頑張っている保育士たちの待遇を良くしたい」という思いから、公的・民間問わず、種々の補助金を申請し、園の遊具や設備、備品の購入に充てることで人件費以外の経費をやりくりしています。
「保育士の待遇を上げて、良い方に来ていただきたい。そして、長く働いてもらって保育の質を保ち、高めることが大切なんです」。
取材中、産休中の保育士から園長と理事長宛に電話が。「出産のお祝い、ありがとうございますって。うちは、出産した先生に園からお祝いをお送りしているんですよ」と笑顔の前川さん。アットホームで微笑ましいやりとりは、同法人が「長く働ける環境づくり」に熱心に取り組んできたことを象徴する温かなワンシーンでした。
企業情報
企業名 | 社会福祉法人稲荷保育園 |
---|---|
所在地 | 京都市伏見区深草開土口町7番8番合地 |
業種 | 教育・こども(教育、こども、保育) |
従業員数 | 53人(正社員40人、非正規社員13人) |
企業紹介 | ■乳幼児の教育・保育 恵まれた自然環境の中で様々な体験を通じて、知育、徳育、体育、食育を心がけ、子どもを心身ともに豊かに育んでいます。 また、職員にとって働きやすい職場環境を作る努力を惜しまず、職員の声を聴き、受け止め、改善し、職員自身が幸せを感じながら、自己実現を目指せるように努めています。私たちと一緒に働いてみませんか! |